ひなたになった 配信限定アルバム「LIBERTY TOWN
配信記念インタビュー (2020.8.4)

インタビュー・文:吉澤瑠美( @madams_lunch 


――まずはねっこ、今日が誕生日なんだよね。おめでとう!


Vo. ねっこ(以下、ね):うれしい!ありがとうございます。26歳になりました。アラサーです(笑)。



――そしてベストアルバムも本日8/4配信リリースされました。


ね:ありがとうございます!念願のリリースです。CDを作ろうという話があったんですが、いろいろずれ込むうちにコロナ禍になってしまって……作る作る詐欺みたいになるところでした。


Ba. みゆ(以下、み):動き出したのは去年の夏頃やったから、1年越しですね。「全国流通盤を出します」と発表して、私たちも2019年のうちに出すつもりが、1年かかってしまいました。本当はCDで出したかったんですけど、今のコロナの状況を見て、配信のみに切り替えました。


ね:今、みんなの耳に届けやすいのは確実に配信なので。CDショップに行くのも怖いという人も多いと思うんです。



――ライブも次々と中止になって、手売りもできないしね。でもそういう意味では時流に乗ったアクションになりましたね。


ね:今までの私たちだったら絶対にCDにこだわっていたと思います。でもいろいろと立ち行かなくなって、配信でもリリースできただけありがたいな、と。


み:サブスクや配信が世の中に広まっていたから、リリースをお蔵入りにせず配信という選択肢を選ぶことができたと思います。世に出せて本当に良かったです。



――ベストアルバムのタイトルは「LIBERTY TOWN」。このタイトルはどうやってつけられたのでしょうか。


ね:去年作ったシングル「PEACE TOWN」(2019.2.15)が完売しまして。売り切れ後も「欲しい」という声を頂いていたので、「PEACE TOWN」の曲を含めたアルバムを作ろうということで動き出しました。

前回は「PEACE TOWN=平和の街」だったから、その続編として「◯◯ TOWN」という名前にしたかったんです。ひなたになったらしい言葉は何だろう、と考えて「LIBERTY=自由」でどうですか、と私が提案しました。



――再発が前提にあったということは、収録曲はほぼ決まっていたということ?


ね:「PEACE TOWN」の4曲と、これまでの音源から5曲加えて9曲にしました。自分たちで言うのもなんですが「PEACE TOWN」が飛ぶように売れたので(笑)、それをもとにひなたになったの名刺代わりという意識で曲を揃えました。

このアルバムのリード曲である「哲学的幻想ロマンティックメルヘン野郎」は、これまでライブ会場限定盤でしか出していなかったので、もっと広く届けたくて今回追加した曲ですね。



――名刺代わりのベストアルバムということだけど、収録曲のチョイスはどうやって決めたの?


み:「PEACE TOWN」と、その後の自主制作盤(「哲学的幻想ロマンティックメルヘン野郎/Are you ready」)は今のひなたになったを表している曲として入れることにして……他はどうやって決めたんやったっけ?


ね:自分たちで入れたい曲を1曲、今回の制作に関わってくれた事務所の方が2曲選びました。



――ひなたの二人はどれを選んだの?


ね:「ティッピの空」ですね。


み:あの曲面白いもんな!


ね:あの曲は、アルバムとして聞いてるときにいたら「可愛い友達」って感じやもんな。


み:ピザの、パイナップル乗ってるやつみたいな感じ!



――ピザのパイナップル乗ってるやつ……


ね:ポップやねんな!ポップなピザって感じ。


み:がっつりしたピザの中にあっても一目置かれるような……


ね:そうそうそう!


み:「あ、こいつちょっと違う所から来たな」みたいな。



――えーと……一旦ピザから離れるね(笑)。

それはつまり、ちょっとクセがある、ということ?


ね:そうですね。クセしかないな、この曲は(笑)。でも結構みんな「好き」って言ってくれる曲なんですよね。ライブでも結構やってるし、耳に残るというか。



――なるほど、たしかに私も「ティッピ」は大好きな曲だなあ。事務所の方のチョイスは?


ね:事務所の方には「この映画の主題歌を」と「サニースミーアイランド」を選んでもらいました。ひなたになったの中にある明るい要素を選んでもらった感じがします。


み:自分らで選ぶと、何が明るいか分からんよな。客観的に見て明るい曲を選んでくれたんやろな。


ね:だいぶポップなアルバムになったと思う。陰の部分がないよな、「ひかげになった」の部分が(笑)。



――まさに「ひなたになった」(笑)。たしかに、そのほうが名刺代わりとして伝わりやすいかもね。

で、紆余曲折ありつつも今、配信という形で1年越しのリリースを迎えたわけですが、このタイミングにしたのは理由があるのでしょうか。単純に準備が整ったから、ということ?


ね:それは、活動休止がきっかけですね。活動休止を決めた当初は、リリースを取りやめる方向に流れかけていたんです。


み:CDを作ることしか考えていなかったから、「(活動休止するなら)出されへんな」って思ったよな。


ね:コロナもあるから実質動けないし。ほぼ諦めていたところで、事務所の方が「配信ならどう?」と言ってくれて、「最高!!やってみたいです」ということで話が進みました。


み:配信リリースというものが純粋に面白そうやったもんな。


ね:これまでにも配信で流通させたことはあるんですけど、それはCDありきで、正直「ついでにやってみた」感がありましたね。


み:目的とかあまり考えずに「配信も出しとくか」ぐらいのスタンスではありました。


ね:でも今回は目的を持って配信するから、私たちの気持ちとしても前向きに臨めました。音源も揃っているし、ジャケットデザインもできていたので、配信リリースに方向転換して1か月後には配信日まで決まりました。スピード出産です。



――スピード出産、は表現としておかしいんじゃない?(笑)


み:どこを省略したんや(笑)。


ね:生態系が変わってしまう(笑)。



――では活動休止の話をもう少し詳しく。活動休止の話はいつ頃から出始めたの?


み:5月ぐらいですね。私が「ちょっとバンドを休止したい」と切り出しまして。年明けぐらいから新型コロナで世間が騒がしくなって、最初はのらりくらり今までどおりやっていこうと思っていたんです。

でも、3月下旬ぐらいから「ライブ活動はどうなんや」みたいな風潮が出てきて、4月に入ってからはバイトも全部できなくなってしまいました。練習どころかみんなで集まるのもできへんし、バイトもできない。このコロナ禍が夏までに収まるなら待てばいいけど、そうじゃない。

私たちは音楽一本で暮らしていなくて、生活が別にある中で音楽活動をしているじゃないですか。そんな自分が今後も音楽活動をするには、音楽以外のことで生活サイクルを立て直すことが先決じゃないかと思ったんです。

この状況が収まるまで数年かかると思ってるんですけど、その間にスキルを身につけようと思って、活動休止を提案しました。ただ、何か資格を取ろうとすると数年はかかるんですよね。

「何年か休みたい」って我ながらすごい提案やな!と思いつつ、ねっこに相談したら「良いやん!」と即答してくれて、それでお休みすることを決心しました。



――ねっこもよくOKしたね。


ね:嫌な気なんか1ミリも起きなかったです。むしろこの状況で前向きに動こうとしてるみゆちゃんすげえ、って。

実は、嫌な気が起きなかった理由は私の中にもあって、最近新曲が書けていないのがずっと引っかかっていたんです。みゆちゃんも、サポートメンバーも「大丈夫だよ」と言ってくれてたんですけど、自分的にはかつてない大スランプに落ち込んでいたんですよね。

みゆちゃんの提案を受けて、「これからもひなたになったの曲を書いていくために、私も一回休んで自分と向き合ってみようかな」と思ったんです。時間をかけてでも前に進みたい、という気持ちが強くありました。でもみゆちゃんは「続けてほしい」って言ってたよな?(笑)



――自分は休むのに!(笑)


み:私はねっこが曲を書けないことを別にスランプとも思っていないんですよね。ねっこは歌えるんやから、私が休む間もねっこはバンドを続けてくれていいし、もし良いベーシストが見つかったら、その人をメンバーにすることも受け入れます、という気持ちで休止の申し出をしたことを覚えています。


ね:私はそれを聞いたとき、「いやそれは絶対ムリ」と思いましたね。みゆちゃん以外のベーシストと私はバンドを組みたくないし、ライブもやりたくないと思ってる。だから「そんなら活休しよう」ってなりました。



――数年かかるかもしれないけれど、戻ってくる前提で活動休止をするんだね。解散も考えていない?


ね:そうですね、解散はないです。これをな、大いに伝えたい(笑)。「活動休止」というのがネガティブワードすぎて嫌やねんな。他の言葉探したけどなかってん。



――今の話を聞く限り、「活動休止」以外に言いようがないもんね。わざわざ「活動休止」を宣言しなければいいんじゃないの?


ね:私がファンだったらずっとモヤモヤする気がしたんです。どっちでもいいけど、私がファンだったら言ってくれたほうがうれしいかな、と。そのほうが希望があるというか。


み:でも別に楽器も弾くし。ひなたになった的には全然「止まります」みたいな感じではない気がしてる。


ね:これは「シャボンディ諸島」なんですよ!


(シャボンディ諸島:漫画「ONE PIECE」に出てくる諸島。散り散りになった麦わら海賊団は、各々違う場所で修行を重ね2年後にこの地で再会する)


ね:私たちにとって活動休止は最強の修行期間なんです。「またシャボンディ諸島で集まろう」って感じです。



――活動休止と言っても、二人ともすっきりした感じだね。中途半端に身動きが取れない状態よりも、やりたいこと、やるべきことがクリアになったというか。


ね:そうですね、何もモヤッと感はないかも。止まった感じがしないですね。私もソロで(ステージに)立ち続けるので安心してください。ひなたになったが再始動しやすい環境を、ソロ活動で作っていきたいと思っています。



――おお!ねっこは音楽活動を続けるんだね。


ね:みゆちゃんも続けるよな?


み:家で黙々とベースを弾きます(笑)。めちゃくちゃベース上手くなって帰ってきたいもん。


ね:みゆちゃんは練習で数年後につなげる。じゃあ私はソロ活動で居場所や曲を作って数年後につなげたい、という気持ちです。



――とはいえ、スキルアップのための勉強もあるから、みゆちゃんがステージに立つ機会はしばらくお預けかな。


み:今のところ予定はないです。でもタイミングが合えばサポートはできたらいいなと思っています。



――二人とも今日でお別れではなく、また会えそうで安心しました。


ね:「活動休止」というだけなんです!


み:「本当の活動休止」ね(笑)。



――それにしても、何年か休止してでもなお「ひなたになった」を解散せず、あくまでも続けようとするのはなぜ?


み:私が「ちょっと休みたい」と言ったとき、最初はねっこも「みゆちゃんが休むなら活動休止か解散にしよう」と言っていたんです。でも私は解散がすごく嫌で。

ライブを観に来てくれたり、CDを買ってくれたり、バンドを応援してくれている人たちの側に立ったら、解散はすごく絶望的なことだと思うんです。私はあくまでも音楽活動を続けるつもりで今回の選択をしているので、活動休止にすることで戻ってくることに希望を持ってもらえるかな、と思っています。


ね:私は、ひなたになったがなくなったらなーんにも楽しくないなって思ったんですよね。なーんもおもろいことないな、って。ゼロよりもっと下、マイナス。また数年後にやれると思えばここから先もがんばれるし。あとは、当事者である感じがあんまりないですね、ひなたになったに対して。

「ひなたになった」が楽しいから続ける。スポーツみたいな感じ?


み:「ひなたになった」さんって人もおるよな。私たちの中に。


ね:自分たちが「ひなたになった」だというより、「ひなたになった」という存在が別にあるような気がします。「ひなたになった」がいるから毎日がんばれるし楽しい。


み:……怖い話になってる?(笑)



――いやいや、良い話だと思います。メンバーみんなの大事な親友というか、いつもの待ち合わせ場所というか。そう考えると、たしかに解散という発想はないかもね。「ひなたになった」は消えないもの。


ね:「ひなたになったを解散する」というのは「太陽ぶっ壊す」みたいなニュアンスになっちゃうな、って思いました。


み:恐ろしい。


ね:昼が来ない!みたいな。



――最後に、これを読んでくれている人たち、ひなたになったを応援してくれている人たちにメッセージがあればお願いします。


み:また元気で会いましょう、以上です。


ね:終わり?(笑)


み:考えれば考えるほどまとまらんかったから、この一言で。


ね:「LIBERTY TOWN」聴いてください!活動休止の話でCDの話が吹っ飛んじゃったから(笑)。



――バンド形態ではしばらく見られなくなるから、ねっこのソロを見て、「LIBERTY TOWN」を聴いて、シャボンディ諸島でまた会いましょう、と。


ね:そして数年後にも、私の誕生日を祝ってください!(笑)